猿楽(さるがく)は、古代から中世にかけて盛んに行われていた日本の伝統芸能です。室町時代に入ると、延年(えんねん)など他の芸能と影響し合いながら独自に発展。さらに観阿弥(かんあみ)・世阿弥(ぜあみ)の出現によって、白拍子(しらびょうし)などの要素も導入され、その様式を大きく変えていきます。やがて今日の能楽の原型に至る大革新がもたらされます。
今回はそんな猿楽について、基本的な情報から歴史、注目の人物や、代表的な演目、初心者が鑑賞を楽しむためのコツなど、幅広い情報をまとめました。
猿楽について初心者の方も、もっともっと猿楽について知りたいという方にも役立つ情報が満載です。
目次
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猿楽とは?意外に知らない基本情報を見てみよう!
猿楽は「申楽」とも書かれ、古代から中世にかけて盛んに行われていた日本の伝統芸能です。座頭級の演者を楽頭(がくとう)、太夫(たゆう)と呼び、一般座員は猿楽師、猿楽と呼びました。
世阿弥の伝書では「申楽」と表記されており、猿楽についての起源を記した「風姿花伝」には「上宮太子、末代のため、神楽なりしを、神といふ文字の片を除けて、旁を残し給ふ。是日歴の甲なるがゆえに甲楽と名づく。」と書かれています。猿楽は本来神楽であるということ、そして「神」という字の旁(つくり。漢字の右側の部分)を使用して、「申楽」との名称が適しているとの解説が行われています。(その他、諸説の解釈が存在しています。)
猿楽を広めた人って?気になる「観阿弥・世阿弥」について
猿楽は、平安時代には存在感がそれほど大きなものではありませんでしたが、室町時代に入ると延年や田楽の能を織り交ぜることにより、相互に影響し合い発展していきました。やがて観阿弥が、白拍子、曲舞(くせまい)などの技術を導入。それまでの猿楽に大革新をもたらします。永和元年(1375年)、三代将軍・足利義満は観阿弥と、息子である世阿弥の猿楽を鑑賞し感銘を受け、観阿弥・世阿弥が所属する結崎座(ゆうざきざ)を庇護するまでに至りました。
観阿弥・世阿弥はその後武家社会、公家社会との接点を背景に、猿楽をさらに洗練。時代における権力とうまく結びつきながら発展させ、能の原型を生み出しました。
いつからあったの?猿楽の歴史をたどってみた!
猿楽は、奈良時代に中国から伝来した「散楽(さんがく)」という芸能が源流と考えられています。散楽は、滑稽な物まね芸、曲芸、手品などの大衆芸能でした。
平安時代に入ると、散楽は他の芸能と織り交ざることで、独自の発展を遂げます。鎌倉時代には歌舞(うたまい)の要素を含む演劇としての形態を持つようになり、専業芸人も誕生。室町時代には寺社との接点を背景に、物まねや滑稽芸とは異なる「延年」や「田楽」の要素が取り入れられます。
やがて観阿弥・世阿弥の出現により、白拍子の舞や曲舞などの技術も導入され、その様式を大きく変えていきます。武家社会や公家社会との接点をきっかけに、さら洗練された猿楽は、今日の能楽の原型に至るまでに発展。その呼称は、明治時代以降「能楽」へと改められました。
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いま有名な「野村萬斎」さんてどんな人?
二世野村萬斎(のむらまんさい)さんは、昭和41年(1966年)生まれ、狂言方和泉流の能楽師として人気を博しています。
主宰する「狂言ござる乃座」は、東京で1987年から年に2回開催(1998年から名古屋、2006年から京都でも年1回開催)。「現代に呼吸する狂言」を考える場とすることを掲げ、野村萬斎さんが意欲的に取り組みたい演目を行っています。より深く狂言を楽しんでもらいたいと、演目や語句の詳細な解説、萬斎さん自身の近況報告などを盛り込んだパンフレットを配布しており、好評を得ています。
重要無形文化財総合指定者でもあり、芸術祭新人賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞、朝日舞台芸術賞、紀伊國屋演劇賞など数々の受賞歴を誇ります。
これであなたも猿楽マスター!注目の『安宅』をご紹介
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猿楽・能楽の演目『安宅(あたか)』は、歌舞伎十八番(かぶきじゅうはちばん)の「勧進帳」のもとにもなっている演目で、現在能の代表作といわれています。現在能とは時系列で物語が進行する形式で、ドラマのような能(劇能)です。
最大の見せ場は、関所での富樫と弁慶との緊迫した問答の場面。弁慶の勧進帳の朗読、義経殴打、山伏と富樫のにらみ合いなど、見どころが息つく間もなく続きます。終曲まで気を抜くことができない緊迫の展開を、能楽の音楽的、舞踊的な面白さとともに楽しめる演目です。
初心者が猿楽(能楽)を楽しむには!?鑑賞のコツ
能楽は国立能楽堂や横浜能楽堂、名古屋能楽堂など各地の能楽堂、能舞台などで鑑賞することができます。
初心者が鑑賞する際のコツとして、かんたんな予習をおすすめします。観にいく演目についてのあらすじや、見どころについてあらかじめ目を通しておくと、共感しやすく作品のメッセージを鮮明に受け取ることができるでしょう。
能の演目は大別すると神、男、女、狂、鬼という5つのジャンルを擁します。「神」は平和・幸福・五穀豊穣、「男」は亡霊や死者、「女」は恋愛と苦悩、「狂」は精神が錯乱した状態、「鬼」は鬼・天狗・妖精など、それぞれ異なるテーマをモチーフとしています。
猿楽と面 大和・近江および白山の周辺から
- 伊東史朗
猿楽(能楽)を代表する演目『井筒』をご紹介
能楽を代表する作品『井筒(いづつ)』は、観阿弥の子である世阿弥によって創られました。室町幕府の3代将軍・足利義満や二条良基などといった、時代の権力をうまく取り込みながら猿楽を発展させた世阿弥。幽玄の美学としての「複式夢幻能(ふくしきむげんのう)」を確立しました。その代表作として、世阿弥自身が伝書「申楽談儀」で「上花也(最高級の作品)」として自賛する傑作でもあります。
伊勢物語の「筒井筒」の内容を軸に、帰らない夫を待ち続ける女性の霊を描いた作品で、喪失感や寂しい感情を抱きながらも、夫を待ち続け昔を回想する女性の幻想的な姿が印象的です。夫の形見を身に着けて、ススキが生える井戸に身を映しながら回想する様子は、秋に漂う切なさを誘います。
能の物語(講談社文芸文庫)
- 白洲正子
■まとめ
古代から中世にかけて盛んに行われていた日本の伝統芸能のひとつ、猿楽。室町時代に入り、延年や田楽の能を織り交ぜ、相互に影響し合うなかで発展しました。やがて観阿弥・世阿弥によりさらなる大革新がもたらされ、現代の能楽に至ります。
現在は、大和猿楽四座である観世流、宝生座(ほうしょうざ)、金春座(こんぱるざ)、金剛座による流派と、その他日本各地に土着している能によって、伝承が行われています。猿楽(能楽)について興味のある方は、一度足を運んでみてはいかがでしょうか。
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