【伝統芸能】延年入門！独特の世界をのぞいてみよう

平安時代の中頃から行われていたとされる日本の芸能のひとつ、延年（えんねん）。現在でも岩手県や栃木県など数か所で重要無形民俗文化財として残存しているほか、歌舞伎の演目の一部にも延年の舞の痕跡を伺い知ることができます。
今回はそんな延年について基本的な情報から歴史、演目などについて気になる情報をまとめてみました。初心者の方も、もっともっと延年を知りたいという方も必見の情報満載です。

延年とは？意外に知らない基本情報を見てみよう！

延年とは、寺院で法会のあとに僧侶や稚児によって行われていた日本の芸能のひとつです。舞楽（ぶがく）や散楽（さんがく）、猿楽（さるがく）、白拍子（しらびょうし）、小歌（こうた）などの貴族的な芸能と庶民的な芸能が混じった歌舞で、平安時代の中期に始まったといわれています。とくに鎌倉・室町時代に隆盛したのち、徐々に衰退していきましたが、現在は岩手県や栃木県などの数か所で延年の痕跡を見ることができます。
延年で舞った舞は「延年舞」と称され、他の芸能にも取り入れられています。例えば、歌舞伎十八番（かぶきじゅうはちばん）の『勧進帳（かんじんちょう）』では、弁慶による延年舞の場面があり、見せ場のひとつとして知られています。

延年を始めた人って？気になる創始者「慈覚大師・円仁」について

延年の痕跡を今に伝え続けている寺社は毛越寺（もうつうじ）や輪王寺、箱根神社などいくつかあり、国の重要無形民俗文化財に指定されています。
延年舞は慈覚大師・円仁（じかくだいし・えんにん）によって唐から伝来したといわれる秘舞曲で、嘉祥元年（848年）に慈覚大師が日光山を訪れた際に伝えられたといわれています。
栃木県日光の輪王寺では天下泰平・国土安穏・延年長寿などを祈願して舞が奉納され、舞衆は平安時代からの伝統色でもある緋色（ひいろ、黄色みをおびた赤）の直垂（ひたたれ）に白の大口袴、白袈裟（しろけさ）の衣装を身にまとい、厳かな雰囲気の中、舞の奉納が行われます。

いつからあったの?延年の歴史をたどってみた！

延年は平安時代の中頃から行われていたとされており、能の原型でもある猿楽とのつながりが深いといわれています。延年と猿楽はお互いに影響を与え合う位置づけにありましたが、起源的にどちらが先に起こったかについては諸説あります。
延年は、初期の頃は下級僧侶や稚児によって法会や余興として行われていました。やがて好評を得ていくうちに、観衆により多くの見せ場をつくるために白拍子や小唄、猿楽など、さまざまな芸能を取り入れるようになります。それに伴って、演じる側も芸の技術が高い僧達を中心に行われるようになり、延年を専門的に舞う僧は「遊僧」「狂僧」とも呼ばれていました。

いま有名な「七代目松本幸四郎」さんてどんな人？

延年で行われた舞は延年の舞と呼びますが、謡曲『安宅（あたか）』では弁慶が舞う男舞として延年の舞が舞われます。
『安宅』を原作とした歌舞伎十八番のひとつ『勧進帳』では、この延年の舞のシーンが見せ場のひとつになっており、特に昭和初期の七代目松本幸四郎（しちだいめまつもとこうしろう）の弁慶は当たり役として一世を風靡しました。1943年に歌舞伎座で六代目尾上菊五郎の義経、十五代目市村羽左衛門の富樫との共演は映画にも残され、近代随一の弁慶役者として知られています。

これであなたも延年マスター！注目の毛越寺の延年をご紹介

岩手県の毛越寺の延年はきわめて整った形で伝承されており、重要無形民俗文化財として高い価値を現代に残しています。
毛越寺の摩多羅神（まだらじん）祭の祭礼（二十日夜祭）での常行三昧（じょうぎょうざんまい）の修法のあと、修正結願の法楽として行われてきた延年の舞。最初に息災延命などの「祝詞（のっと）」があげられ、「田楽躍（でんがくおどり）」「路舞（ろまい）」「老女舞」「若女舞」「京殿舞」などが奉納されています。現在でも平安時代の優雅さを伺い知ることができる、貴重な行事となっています。